建設業の現場では、事故、手戻り、工期遅延、法令対応、人材不足、資材高騰など「想定外」が当たり前に起きます。だからこそ必要なのが、気合いや経験則に頼らず、リスクを見える化し、優先順位を決めて、限られた資源を最も効く対策に集中するリスクマネジメントです。本記事では、建設業に存在するリスクを体系的に整理し、実務で使える考え方として落とし込み、最終的に経営を守る視点までつなげていきます。
建設業にリスクマネジメントが求められる理由
建設業は、製造業やサービス業と比べても、仕事の成り立ち自体が不確実性に強く影響されます。現場が毎回変わり、作業条件も毎回変わり、関係者も毎回変わる。しかも、危険源が目の前にあり、ミスが人命や重大損失に直結することがある。そのうえ、工期や原価は契約で縛られ、利益は薄く、遅延や手戻りが出た瞬間に利益が吹き飛ぶ構造です。
ここで誤解しやすいのは、リスクマネジメントを「安全活動の別名」だと捉えてしまうことです。安全はもちろん最優先ですが、建設業のリスクは安全だけではありません。品質、工程、法令、労務、情報、外部環境のどれが崩れても、結果として「利益が残らない」「信用が落ちる」「受注が止まる」「採用できない」という経営の問題に波及します。
だから建設業のリスクマネジメントは、現場単位の対策で完結させず、会社としての意思決定の仕組みまで含めて考える必要があります。どのリスクに先に手を打つか、どこまで対策するか、何を許容し何を許容しないか。その判断の質が、事故やクレームの発生率だけでなく、利益率、資金繰り、取引継続、採用と定着に直結します。
建設業に存在するリスクの種類
建設業のリスクは、網羅的に把握しないと「結局、何を優先して対策すべきか」が決められません。実務で扱いやすいように、まずは全体像を大きく整理します。建設業のリスクは、大きく分類すると次の5つに分けられます。
- 安全リスク
- 品質・施工リスク
- 工程・工期リスク
- 法令・労務リスク
- 外部環境・経営リスク
さらに、実務では「情報・管理リスク(属人化、連携不足、記録不足)」が全カテゴリに絡みます。情報と管理が弱い会社ほど、事故もクレームも遅延も増えます。逆に、情報と管理が整うほど、同じ人数でも現場が回り、事故と手戻りが減り、利益が残りやすくなります。
ここから先は、各リスクの特徴を「起点」「起きやすいパターン」「波及」「管理の要点」という順で深掘りします。重要なのは、リスクを単独で見ないことです。建設業では、リスクが連鎖します。工程が苦しくなると品質が落ち、品質が落ちると手戻りが出て工程がさらに苦しくなり、焦りが安全を壊します。こうした連鎖を前提に設計できるかどうかが、リスクマネジメントの差になります。
安全リスクとリスクマネジメントの実際
安全リスクは、建設業のリスクの中でも最優先です。理由は単純で、人命と直結し、ひとたび重大事故が起きれば、工事停止、行政対応、損害賠償、社会的信用の失墜、元請からの取引停止といった形で「会社の存続」まで揺らぐからです。頻度が低いから後回しにしてよい、という性質のものではありません。
実態を示す数字として、厚生労働省の「令和5年における労働災害発生状況」では、建設業の死亡者数は223人とされています。また、全産業の休業4日以上の死傷者数は135,371人と示されており、建設業を含む各業種で死傷災害が発生している現実があります。
一方で、建設業の労働災害は長期的に減少傾向にあります。死亡者数・死傷事故数ともに「減っている」という事実は重要です。建設業における安全リスクはリスクマネジメントによって下げられるということを示しているからです。



建設業でいえば昭和44年と令和5年を比較すると、死亡者数は10分の1にまで低下しています。現場レベルで核になるのは、リスクアセスメントの考え方です。厚生労働省はリスクアセスメントの手順として、危険性や有害性を特定し、リスクを見積り、優先度に応じて対策するという流れを分かりやすく示しています。
※厚生労働省「職場のあんぜんサイト:建設業におけるリスクマネジメントの進め方」
安全リスクの管理で差がつくのは、「やっているか」より「どのタイミングで、どの粒度で、誰が、何を基準に判断しているか」です。建設業の安全リスクは、作業そのものよりも、計画と段取りの段階で勝負が決まることが多いです。たとえば墜落・転落なら、足場の計画、開口部養生、親綱やフルハーネス使用条件、昇降設備の位置、資材の揚重手順など、着工前に勝負がほぼ決まります。重機災害なら、作業半径、立入禁止区画、誘導員配置、合図方法、搬入動線の設計がカギになります。
さらに「現場が動き出してから」の安全管理は、変化するリスク要因の管理に対応のウェイトが占められていきます。天候の変化、工程変更、協力会社の入れ替わり、同時作業の増加、資材置場の移動。こうした変化において事故が起きやすい。だからこそ、朝礼やTBM、KYを単なる儀式にせず「いつもと違う危険は何か」「今日は何に注意すべきか」を言語化して共有することが、実務としてのリスクマネジメントになります。
安全以外のリスクが経営をじわじわ蝕む
重大事故は頻度としては低い一方で、品質・工程・法令・労務・情報のリスクは、日常的に発生し、事業者の利益にも影響を及ぼします。ここを「現場の問題」として放置すると、だんだんと利益が確保できなくなり、最終的には「資金が回らない」「人が辞める」「受注が減る」という形で顕在化します。いま、建設業のリスクマネジメントは安全以外のリスクにこそ重点が移っています。
品質・施工リスクの典型は、手戻りとクレームです。施工不良、寸法違い、納まりミス、材料取り違え、写真不足、検査漏れ。原因は現場の技能だけではありません。むしろ多いのは、情報共有不足や段取り不足、確認ポイントの未設定、工程の無理による確認省略です。品質リスクが厄介なのは、発生頻度が高く、しかも「一件あたりの損失」が見えにくいことです。手直しに入った職人の時間、追加の材料、現場監督の対応、施主への説明、再訪問、引き渡し遅れ。その積み上げが利益を削ります。
品質リスクは、工程とセットで設計すると下がります。工程の中に検査を組み込む。写真管理を標準化する。確認すべきポイントを工種ごとに固定化する。例えば、躯体・下地段階での確認を飛ばすと、仕上げで取り返しがつかなくなり、損失が一気に増えます。だから「いつ、誰が、何を確認し、合格したら次へ進む」というゲート設計が必要です。これは大企業だけの話ではなく、中小でもできる現場の仕組みです。むしろ小さな会社ほど、一件の手戻りが利益率に与えるインパクトが大きいので、標準化の価値が高くなります。
工程・工期リスクは、利益率だけでなく安全と品質も悪化させます。天候、資材納期、職人手配、他業種調整、設計変更、検査待ち。遅延要因が重なると、残業・応援・夜間作業で原価が上がり、焦りで確認が飛び、事故と不具合の確率が上がります。焦りや無理な作業工程が安全のリスクに深刻な影響を与えます。つまり工程リスクは、他のリスクを増幅させる起点です。
工程リスクの管理で重要なのは、進捗管理だけでは足りないことです。「予定どおり進んでいるか」の確認だけでは遅い。必要なのは「来週、何が遅れそうか」「その遅れが起きたら、どこに波及するか」「先に打てる手は何か」という予測と先手です。資材が遅れそうなら代替案を決める、発注を前倒しする、工程を組み替える。職人が不足しそうなら早めに手配を打つ、工区を分ける、同時作業を避ける。工程会議を「予測会議」に変えるだけで、リスクマネジメントの質が上がります。
法令・労務リスクは、発覚した瞬間に影響度が跳ね上がるリスクです。是正指導、行政処分、指名停止、取引停止、元請の監査不合格。こうした事態になれば、現場で頑張っても取り戻せません。ここで重要なのは、法令・労務リスクは現場任せにすると破綻しやすいという点です。契約、変更契約、下請管理、産廃、資格、労務時間、安全書類、教育記録。どれも「会社の仕組み」として管理しないと、忙しさに飲まれて穴が広がります。
また、情報・管理リスクは、すべてのリスクの土台です。現場情報が共有されない、伝達が口頭だけ、記録が残らない、判断が属人化している。こうした状態では、同じミスが繰り返されます。リスクマネジメントの観点では、属人化はリスクそのものです。誰か一人の頭の中にしかないやり方は、その人が休めば止まり、引き継げず、ミスが増えます。逆に、最低限のルールと記録が揃うだけで、事故・手戻り・遅延の発生率が下がり、現場が回りやすくなります。
リスクマネジメントの本質は優先順位付け
リスクマネジメントの本質は「全部に手を出すこと」ではありません。限られた人員、時間、コストの中で、何を最優先に守るかを決め、優先順位に従って対策を打つことです。これはISMSのリスクマネジメントと同じ発想です。守るべき対象(資産)があり、脅威があり、脆弱性があり、発生可能性と影響度を評価し、リスク対応(回避・低減・移転・受容)を決めて運用する。建設業でも、その枠組みはそのまま通用します。
厚生労働省の指針でも、危険性・有害性の調査(リスクアセスメント)を行い、その結果に基づき必要な措置を講じるという考え方が示されています。そして基本資料では、リスクを見積り、優先度を定めて対策するという流れが整理されています。
※厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」
建設業で優先順位付けを現場で機能させるには、影響度の見方を具体化するのがコツです。単に「損失額」だけで見ると、重大事故や重大コンプライアンス違反の怖さが伝わりません。影響度は、少なくとも次の観点で評価することが重要です。
人命・重篤度への影響
工事停止・遅延の影響
金銭損失(原価増、手直し、賠償、違約金)の影響
信用(元請・施主・近隣・行政・金融)の影響
人材(離職、採用難、協力会社離れ)の影響
この観点で見ると、発生頻度が低くても影響度が極端に大きいリスクは最優先になります。たとえば死亡災害、第三者災害、大型瑕疵、重大な法令違反。これらは最悪、「一発レッドカード」の可能性があるため、予防に投資する価値が高い。一方で、発生頻度は高いが影響が局所的なリスクは、標準化・チェックリスト・教育で一定水準に抑えつつ、過剰なコストをかけない判断も必要になります。
さらに、対策方針を回避・低減・移転・受容で整理すると意思決定が速くなります。建設業でとらえると以下のようになります。
- 回避は、危ない作業をやらない、工法を変える、手順を変える、計画を変えるという判断です。例えば同時作業が危険なら時間帯を分ける、仮設が不十分なら先に整備してから入る。
- 低減は、手すり、親綱、フルハーネス、立入禁止、誘導員、教育、手順書、監視、機械化などで起きにくくすることです。
- 移転は、保険、契約条件、保証、外注の活用などで損失の一部を外へ移すことです。
- 受容は、一定のリスクは残る前提で監視しながら進めることですが、受容には条件が必要です。受容するなら、どこまでを許容し、どの兆候が出たら止めるかを決めておかないと、単なる放置になります。
ここまで整理すると、現場の会話が変わります。「気をつけよう」ではなく「このリスクは影響が大きいから回避する」「これは低減でいける」「これは移転できる」「これは受容するが、条件はこう」と判断できるようになります。
建設業のリスクは最終的に経営リスクへ集約される
安全、品質、工程、法令、労務、情報、外部環境。入り口はバラバラでも、建設業のリスクは最終的に経営へ集約されます。なぜなら、建設業の経営は「信用と継続」で成り立っているからです。
事故が起きれば、現場が止まり、調査が入り、是正が入り、取引先が離れ、採用が難しくなる。品質トラブルが続けば、手直しで利益が消え、評判が落ち、紹介が止まる。工期遅延が常態化すれば、元請や施主からの評価が落ち、次の受注が減る。法令違反が発覚すれば、取引停止や行政処分で売上が落ちる。人材不足が深刻化すれば、受注したくても受注できず、現場の無理が増えて事故と不具合が増える。
もちろん従業員の生命などの安全は最たるものですが、企業の経営者として守るべき最上位は「事業継続」です。そのために、現場の安全も、品質も、工程も、法令も、人材も、同じ土俵で評価し、優先順位を決め、仕組みとして回し続ける必要があります。
リスクマネジメントを適切に回し続けることで、確実にリスクは下げられます。もちろん、リスクをゼロにはできない。なので、「一時的な取り組み」ではなく「リスクマネジメントをPDCAサイクルで回し続ける仕組み」が経営体質として重要になります。
経営リスクを下げる一つの選択肢としての介護リフォーム

リスクマネジメントを徹底すると、最後に必ずぶつかる壁があります。現場の安全、品質、工程、法令の対策をどれだけ磨いても、外部環境由来の不確実性は残るという現実です。資材価格の変動、エネルギー価格、景気、災害、人口構造、人材不足。これらは努力で軽くはできても、ゼロにはできません。
ここでリスクマネジメントの考え方に忠実でいるなら、次の発想が自然に出てきます。発生可能性が高く、影響度も大きい外部環境リスクに対しては、現場改善だけではなく、事業構造そのものを見直して耐性を上げる必要がある。つまり、収益源や案件特性を分散し、波をならし、キャッシュフローを安定させるという「構造のリスク対策」です。
事業の多角化、新規事業や異なるターゲットへの展開。別の収益構造を作ることで、リスクを分散することができます。
例として相性が良いのが、介護リフォームです。建設業・リフォーム業の強みである施工力、現場段取り、地域対応を活かしながら、比較的小規模で短工期の案件を積み上げやすく、需要が人口動態に支えられやすい領域だからです。安全・品質の管理水準を上げてきた会社ほど、介護リフォームの顧客満足にも直結しやすく、紹介やリピートにもつながります。
1件当たりの単価が高いものではありませんが、需要が安定しており、介護福祉関係事業者からの紹介・集客が見込め、成約率・粗利率も格段に高い。建設業が多角化を図る際に、専属スタッフ一人で始められるスモールビジネスとして注目を集めています。
介護リフォーム本舗は、介護リフォームという市場で仕事を受けるために必要な知識、運用、提案パターン、ITシステム、事業として回す仕組みづくりを支援しています。建設業のリスクマネジメントを「事故を減らす」だけで終わらせず、経営の安定まで視野に入れるなら、介護リフォームという柱を持つことは、リスクを下げるための現実的な選択肢になります。
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