熱中症リスクの警鐘 ― ますます過酷になる現場の「いま」
2024年の夏、職場での熱中症による死傷者数が過去最多の1,257人に達しました。前年から150人以上も増加し、これは単なる一時的な増加ではなく、現場の環境が確実に悪化していることを意味します。
さらに死亡者は31人。これは1989年以降で2番目に多い数字であり、事態の深刻さを物語っています。


※どちらも「2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)|厚生労働省」
なかでも建設業は、死傷者228人・死亡者10人と、全業種の中で最多。
猛暑のなか、重い資材を運び、安全装備を身につけ、高所や舗装の現場に立ち続ける――その過酷さは、数字が物語る以上に現実として突きつけられています。
そして2025年、夏。さらに過酷な暑さが、今まさに現場のスタッフを悩ませているのです。
もはや「暑い夏」は通用しない ― ヒートアイランドの現実
気象庁のデータによると、35℃を超える「猛暑日」は年々増加しており、とくに都市部では「朝晩も気温が下がらない」状態が当たり前になりつつあります。
2024年も例外ではなく、7月と8月だけで職場における熱中症による死傷者の約8割(1,019人)が集中しました。
「日中の作業に気をつければいい」という従来の対策は、もはや十分ではありません。

※「2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)|厚生労働省」
重症化する現場、そのとき何が起きていたのか?(事例紹介)

熱中症で救急搬送された事例の中には、ほんのわずかな対応の遅れが命取りとなったケースもあります。
● 事例①:鉄筋の溶接作業中に歩行が困難となり搬送
被災者は8時30分から、鉄筋の圧接作業に従事していた。15時40分頃、歩行が困難となる等の症状となり、救急搬送されたが、同日に搬送先の病院で死亡した。
● 事例②:防水シート貼付け作業終了後に意識消失
被災者は建物屋上で防水シート貼付け作業を終日行い、18時頃終業後に忘れ物を取りに屋上へ行った。被災者がしばらく戻らなかったため探しに行ったところ、足場の手すりに寄りかかり意識を失っていた状態で発見され、救急搬送されたが、その後死亡した。
● 事例③:校庭での土間打ち作業時に痙攣・救急搬送
被災者は9時頃から校庭の土間打ちの作業のため、セメント等の袋を運搬する作業に従事していた。12時前、休憩室において、被災者が別の労働者に突然殴りかかり、奇声を上げ、その後痙攣を起こしため、救急搬送された。搬送先の病院にて処置が終わり、自宅に帰宅した後、再び痙攣を起こし、別の病院に救急搬送されたが、搬送先の病院で同日に死亡した。
なぜ重症化するのか?― 3つの見逃されがちな盲点
これらの事例に共通するのは、次の3つの落とし穴です。
① WBGT(暑さ指数)の未測定
現場の「暑さ」を科学的に判断する基準がないまま作業を続けたことで、暑さから避難するタイミングを失っていました。
実際、2024年に死亡者が出た現場の約3分の2でWBGT測定が行われていなかったことが明らかになっています。
② 緊急対応体制の不備
「誰が対応するか」「どのように医療機関へ連絡するか」といった行動マニュアルが現場で共有されておらず、対応が遅れることで重症化したケースが多発しています。
③ 高齢作業者の健康管理不足
50歳以上の作業員が死傷者の過半数を占めており、持病や体調に関する情報が共有されないまま、無理をして作業を続けてしまうことが命取りになっています。
命を守る現場へ ― 今、経営者に求められる視点
かつては「夏は暑いのが当たり前」「我慢が美徳」という空気があったかもしれません。
しかし、気候は確実に変化しており、現場の暑さは「努力や根性で乗り越えられるレベル」を超えています。
いま必要なのは、「暑さとともに働く」ための仕組みと環境づくりです。
それは現場の安全を守るだけでなく、職人の命を守り、企業の信頼と未来を守る経営判断でもあるのです。
2025年6月1日施行|熱中症対策の義務化で、現場に求められる“当たり前”が変わった

2025年6月1日――
この日、建設業界をはじめとする暑熱環境で働くすべての事業者に対し、「熱中症対策の義務化」が法令として施行されました。
詳しくはこちらのリーフレットに掲載されています。
従来は努力義務に留まっていた対策が、労働安全衛生規則の改正によって「義務」へと格上げされたのです。
これは、命を守る“対策”が、経営の“責任”として明確に問われる時代に入ったことを意味します。
■ 対象となる作業とは?
新制度の対象となるのは、以下のような作業環境です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作業条件 | WBGT(暑さ指数)28℃以上 または 気温31℃以上 |
| 作業時間 | 1時間以上の継続作業 または 1日4時間を超える作業 |
※WBGTとは、気温・湿度・輻射熱を組み合わせた「暑さの総合指標」で、熱中症予防の国際基準でもあります。
屋外作業が多い建設業は、ほぼすべての現場が該当することになります。
■ なぜ義務化されたのか?
背景には、熱中症による死亡災害が毎年30人前後発生しているという深刻な現実があります。
厚生労働省の調査では、重篤化の大半が「未対策」や「初動の遅れ」により発生しており、命を守るには制度としての強制力が必要と判断されました。
さらに、近年の気候変動で猛暑日が急増していることもあり、すでに「夏場の現場は健康被害のリスクと隣り合わせ」なのです。
■ 義務化された3つの主要対策

新たに義務となったのは、以下の3つの項目です。
| 義務内容 | 具体的にやるべきこと |
|---|---|
| ① 報告体制の整備 | 熱中症が疑われる場合、すぐに報告できる連絡手順・担当者・フローを明文化し、全作業員へ周知 |
| ② 緊急時対応の策定と周知 | 倒れた場合の作業中止・水分補給・身体冷却・医療搬送・緊急連絡網をマニュアル化し、掲示・教育 |
| ③ 作業前の労働衛生教育 | 熱中症の兆候、予防法、対処方法について全従業員に教育を実施。特に高齢作業者には重点的に |
これらの対策は、「作業員の気づきと報告」「迅速な初動」「予防のための知識」を三位一体で支える設計です。
■ 違反した場合、どうなる?
もしこれらの義務に違反した場合、以下のような厳しいリスクが事業者を待っています。
- 6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金(労働安全衛生法 第119条)
- 労働基準監督署からの是正勧告・業務停止命令
- 労災事故時の刑事責任・企業信用の失墜
さらに、熱中症死亡事故はメディア報道の対象にもなりやすく、企業名が報道されるケースも出ています。
■ 今すぐ取るべき「5つの現場対策」
義務化に対応するには、現場ごとに以下のような行動が求められます。
| 現場でやるべきこと | 内容 |
|---|---|
| ① WBGTの常時測定 | 暑さ指数の測定器を導入。数値に応じて作業制限や休憩指示を行う |
| ② 報告・対応マニュアルの整備 | 体調不良者の報告フロー、連絡先、担当者を明文化 |
| ③ 対応手順書の作成・掲示 | 冷却方法、搬送フロー、救急連絡網などを現場に掲示 |
| ④ 朝礼や掲示による教育 | 兆候の見分け方や、水分補給のタイミングなどを毎日共有 |
| ⑤ 健康リスク管理の強化 | 特に高齢者・既往症のある作業員への注意と体調確認を強化 |
✅ 制度を“義務”で終わらせず、“信頼”につなげる
この制度改正は、単なる規制強化ではありません。
職人の命を守ることが、企業の未来を守ることであり、
安心して働ける現場こそが、人材が定着し、選ばれる会社になるという時代の要請です。
今後の建設業において、熱中症対策はコストではなく“経営投資”。
対策を早期に整えた企業こそが、次の信頼と成長を勝ち取っていくことになるのです。
制度の詳細はこちら、厚生労働省のホームページをご確認ください。
建設業の現場での実態と残るリスク──“対策の実施状況”と“制度対応”のギャップ
2025年6月に熱中症対策の義務化が施行されたことで、建設業界でも安全管理への意識がかつてないほど高まっています。
多くの企業が水分補給や休憩の確保など、基本的な対策は講じている一方で、制度として義務化された“管理体制”の整備には、まだ大きなギャップがあるのが現実です。
現場の対策実施率は?「やっているつもり」が危ない
帝国データバンクの調査(2024年)では、熱中症対策を「すでに実施中」「今後実施予定」と答えた企業は全体の95%を超えています。
建設業では約8割が制度の義務化を認識しており、意識は高まりつつあるように見えます。

※帝国データバンク公表「熱中症対策の義務化、企業の55.2%が認知 建設業で認知度高く」|三井住友海上MSコンパス
しかし、制度が求める「報告体制」「緊急時マニュアル」「教育」の整備状況をみると、実態とのギャップは明らかです。
| 義務化された対応項目 | 全企業 実施率 | 建設業 実施率 |
|---|---|---|
| 熱中症の学習・周知 | 23.1% | 49.3% |
| 作業者の報告体制(症状・疑いの申告) | 15.2% | 32.6% |
| 緊急対応の手順書、搬送連絡網の整備 | 13.0% | 非公開 |
| 巡視やバディ制などの安全体制 | 4.8% | 非公開 |
数字から見えてくるのは、「対策しているつもり」でも、法制度が求めるレベルには届いていない企業が多いという現状です。
現場で進む実践例も、一部にとどまる
一方で、一部の現場では、先進的な取り組みも始まっています。
- WBGTモニターを常設し、数値が一定を超えた場合に作業停止・休憩を徹底。
- 休憩所の冷房整備や水・氷の常備、熱中症対策グッズ(空調服や冷感タオルなど)の標準装備。
- 作業計画の柔軟運用:暑さ指数に応じて作業時間を調整し、元請と協力して安全最優先の段取りに変更。
- 教育用ポスターや掲示物を活用し、兆候の早期発見を促進。
こうした対策は現場で効果を発揮しているものの、業界全体での普及には至っていないのが現状です。
なぜギャップが埋まらないのか?
熱中症対策の“制度対応”が進まない背景には、いくつかの構造的課題があります。
- WBGT測定が形骸化している現場が多く、実測値に応じた判断がされていない。
- 緊急時の対応フローが不明確で、誰がどう対応するのかが曖昧なまま放置されている。
- 休憩や水分補給が“自己責任”のままで、ルールとして明文化されていない。
- 高齢作業員や持病持ちのリスク管理が不十分で、健康状態の把握と対応ができていない。
こうした実態が続けば、いくら制度が整っても、実際の現場ではリスクが解消されないままになります。
安全な現場の実現には、“仕組み”と“習慣”の両立が不可欠
熱中症対策は、単に扇風機や飲料を用意するだけでは不十分です。
制度で求められているのは、報告できる仕組み、緊急時の即応体制、教育の浸透という「現場運用の仕組み化」です。
そして、これを形だけで終わらせず、毎日の習慣として根づかせることが、真の意味での「命を守る現場」につながっていきます。
✅ まとめ:制度に“対応済”と言えるのは、ほんの一握り
現場では対策が進んでいるように見えても、
制度が求める「管理体制の整備」に至っている企業は、ごくわずかです。
- 水分補給や服装改善だけでは、義務違反になる可能性がある
- 「やっているつもり」が命を落とす要因になり得る
- リスクを軽減し、信頼を守るには“経営としての対応”が必要
屋内作業中心の介護リフォーム──高齢の職人も“無理なく働ける”選択肢

2025年6月からの熱中症対策義務化により、建設業の現場は「暑さ対策」が欠かせない新たな時代へと入りました。
そのなかで、注目を集めているのが“比較的安全な屋内作業”を中心とするリフォーム事業です。介護リフォーム事業もそのひとつです。
高齢者の自宅介護が増える中で、住宅改修の需要が拡大
高齢者の住まいに関するニーズは年々高まっています。
要介護認定を受けた方の多くが、できる限り自宅で暮らし続けたいと希望しており、それに応えるかたちで手すりの設置や段差解消、浴室・トイレの改修といった住宅リフォームの需要が急増しています。
国や自治体もこれを後押ししており、介護保険制度の「住宅改修費」では、上限20万円までの補助が支給されるため、依頼者の自己負担は1〜3割程度に抑えられるのも大きな特徴です。
作業の多くは屋内で、季節に左右されにくい
介護リフォームの中心となるのは、以下のような作業です:
- 廊下やトイレへの手すりの取り付け
- 浴室の出入口の折れ戸交換
- ドアノブをレバーハンドルに交換
- 室内の段差解消や床材の変更
これらは基本的に屋内の一般住宅で行う小規模工事が中心です。ほぼほぼ手すり取付の施工が大部分を占めています。
そのため、猛暑や豪雨などの影響を受けにくく、真夏でも作業が中断されにくいという点が、建設業とは大きく異なります。
とはいえ「完全な安全環境」とは言えないが…
もちろん、介護リフォームに外構工事が一切ないわけではありません。
玄関やポーチ、屋外階段への手すり取り付け、スロープ施工など、一部屋外での作業も含まれます。
また、ご高齢の利用者の中には「エアコンを使いたくない」という方もおり、必ずしも涼しい室内作業とは限らないケースもあります。
しかし、それでもなお、高所作業や重機使用を伴う建設現場と比べれば、はるかに安全性が高く、体力的負担も小さいのは間違いありません。
とくに、50代〜60代の職人にとっては、
「暑さが年々きつくなってきた」
「でも、まだまだ現場で働きたい」
という現実と向き合う中で、“無理なく、社会に必要とされる仕事”としての介護リフォームは非常に魅力的な選択肢となっています。
経験がそのまま活かせる、新しいフィールド
介護リフォームは、建設・内装・設備工事などで培ってきた経験がそのまま活きる分野です。
- 木工、配管、タイル、電気の知識を活かせる
- 現場との打ち合わせや工程管理などの経験がそのまま活用できる
- 職人としての丁寧な施工が、利用者やその家族から高く評価される
さらに、フランチャイズ本部(介護リフォーム本舗)では、
- 介護保険制度の理解や申請方法
- 利用者との接し方、提案のコツ
- 現地調査・見積もりの方法
などを研修・マニュアル・サポートツールで全面バックアップ。未経験でも安心して参入できる仕組みが整っています。
✅ 働きやすく、やりがいがあり、必要とされ続ける仕事へ
介護リフォームは、単なる「暑さ対策」ではなく、
自分の体力に合った働き方を見つけるための新しいキャリアの選択肢でもあります。
そしてなにより、
「おじいちゃんが転ばずに暮らせるようになった」
「家で介護がしやすくなった」
というような感謝の声を直接もらえる、“ありがとう”が返ってくる仕事です。
建設業に長年携わってきた方にこそ、
次のキャリアとして検討する価値のある分野です。
いま、命を守る選択を ― 「次の一手」としての介護リフォーム
2025年6月、熱中症対策は「努力義務」から「経営責任」へと変わりました。
建設業の現場はますます厳しさを増し、特に中小事業者や高齢の職人にとっては、夏場の作業が命に関わるリスクとなっています。
そんな中で、比較的安全で安定した働き方ができる介護リフォーム事業が注目されています。
屋内作業を中心に、地域社会からも感謝され、将来性もあるこの分野は、まさに“次の一手”となる選択肢です。
✅ 建設業経験を活かして、無理なく社会に貢献できる仕事へ
「まだ働きたい。でも今のままでは限界がある」
そんな思いがある方にこそ、介護リフォームという新しいフィールドを知ってほしいと思います。






